今はタヌキのおうち キツネ「靴泥棒」のまち 姿消した”犯人”どこへ 平穏戻るも謎残る

2023.07.02
地域注目自然

深夜に巣穴付近をうろつくタヌキ。キツネは現れなかった=兵庫県丹波市春日町黒井で

あの騒動は今―。丹波新聞が2017年に報じた、兵庫県丹波市春日町黒井地区の軒下から突如、靴が消えた怪現象。住民の目撃情報から「靴泥棒」はキツネと判明したが、今はどうなっているのだろうか。実は黒井地区では、靴泥棒のキツネが話題になることはなくなり、平穏な日々が戻っていた。キツネの巣は今、タヌキが使っていた。

2017年に200足弱の靴の散乱が見つかった、黒井城跡がある「城山」麓の杉ノ下自治会の現場。同年夏の丹波新聞の報道がインターネットで拡散し、18年2月に「VSリアルガチ最強生物」(TBS系列)、同年8月に「天才!志村どうぶつ園」(日本テレビ系列)、今年3月に「ダーウィンが来た!」特番(NHK総合)で取り上げられるなど、靴泥棒のキツネは一躍「時の人」となった。

これら番組の撮影に協力した男性(67)によると、「ここ1年ぐらい姿を見ない。鳴き声も聞こえない。以前は朝早く、靴をくわえて走るキツネを見かけたのに」と近況を話す。

靴の散乱現場そばにあるキツネの巣穴

男性宅から150メートルほどの所にある山の斜面の巣穴には、土に埋もれかけた靴、やや新しいとみられるサンダルなど80足近くが今も残されている。被害がゼロになったかどうかは定かではないが、少なくとも地域の話題になるほどではなくなっている。男性宅でも、夜通し屋外に靴を置いていても盗まれることがなくなった。

キツネの生態に詳しく、黒井地区の現地に訪れた麻布大の塚田英晴教授は、全てのキツネが泥棒を働くわけではなく、泥棒を働いていた個体が近辺からいなくなったとみる。「最初に話題になったのが2017年。その前から被害があったと聞く。当該ギツネが今も生きているのかどうか」と、死んだ可能性もあるとする。

巣穴を使うタヌキとの関係について、塚田教授は、「タヌキがキツネの古巣を使うのは、よくあること。タヌキはキツネのように深い巣穴を掘れないので」と言う。キツネは子育て時期が終わると巣穴を使わなくなり、空き家にタヌキが入居したと見られる。

キツネの子育て期間とされる今の時期に、タヌキがキツネの巣穴を使っているのは、子ギツネがいないことを意味する。「親ギツネが靴を餌と勘違いし、子ギツネに与えている」とする塚田教授の仮説に立つなら、子ギツネがいなければ、仮に泥棒ギツネが生きていても盗みを働くことはない。

丹波地域では黒井地区に続き、氷上町成松の甲賀山でも靴泥棒のキツネが見つかった。過去には隣の丹波篠山市、京都府福知山市大江町、さらには岩手県、長野県、福井県などでも被害が確認されているが、なぜキツネが靴を盗むのか、理由の特定に至っていない。研究費の提供者が現れないことには、「謎」のままだ。

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