本紙5面に掲載している元中学校教諭、酒井雅和さんの講演を聞いた。視力を失った絶望から立ち直り、もう一度、社会貢献をしたいと決意するまでになった道のりを淡々と話され、胸が熱くなった。▼酒井さんに再起への力を与えたひとつは、「ほめる」ことだったという話も印象に残った。入所した施設の先生たちは、酒井さんに対して笑顔で上手にほめたという。ほめることは、人の心に明かりをともすことを改めて知らされた。▼死刑囚歌人といわれた島秋人を思い起こす。殺人などの罪で死刑が確定した島は、独房の中で、中学時代に先生から絵をほめられたことを思い出し、先生に手紙を出した。先生からは返事とともに、短歌入門書が届いた。▼入門書を頼りに短歌を作り始めた島は、新聞に歌を投稿。入選の常連になり、ついには毎日歌壇賞を受けた。「褒められし一つのことが嬉しかり命いとしむ夜の思いに」。島が歌人といわれるようになったきっかけは、中学時代にただ一度だけほめられたという体験だった。▼ほめられることで人は救われ、勇気づけられる。さらには絶望の淵からもはい上がれる。酒井さんの講演のタイトルは、「わたしに力をくれた人たち」だった。ほめることは、人に生きる力を与えることがこのタイトルからもわかる。 (Y)