詩画集を多く出している福知山市の小籔実英住職から新著のエッセー集「心配せんでもよい」をいただいた。31編のエッセーの中に、子どもの拒食症に悩んでいる母親のことが書かれたものがある。▼寺の観音さまにお参りに来た母親は、台座の言葉に目がとまった。「やまない雨がないように終わりのない悲しみもない」。この言葉にふれ、涙があふれ出た。半時間ほど泣き続けたあと、庫裏にいる小籔住職を訪ね、「この言葉で救われました。この言葉を色紙に書いてもらえませんか」と頼まれたそうだ。▼このエッセーのタイトルは、「ひとつのことばで人生は変わることがある」。その通りだと思う。言葉は、底知れない力を持っている。それは絶望の淵から人を救い上げるほどの力だ。▼たとえば、明日、確実に自分が死ぬとする。そのとき人は何をするか。まずは何とか生き延びる手立てを探すだろう。でも、それは不可能だとわかると、どうするか―。哲学者の池田晶子氏は、「必ず言葉を求める」という。お金や物ではなく、人生の真実を語る言葉を探し出し、救いを求める。そう池田氏はいう。▼「いい言葉を沢山もつことは、銀行に沢山、預金するよりも豊かなことだ」(劇作家・寺山修司氏)。冒頭の母親は、出会った言葉を心の中に大切にしまいこんだであろう。(Y)