戸籍の上では生きているのに実際は、とうの昔に亡くなっていた。あるいは所在が不明。何とも奇怪な話が相次いでいる。そんな事案が起きる背景の一つとして、地域の絆が失われているとの指摘がある。絆がしっかりしていれば起こりえない。だから地域の絆を再構築しなければいけない、との声もある。▼しかし、そもそも地域の絆が薄れた一因は、私たちがそれをうとんじたからだ。辞典を見れば、うとんじた理由がわかる。▼手元の漢和辞典によれば、絆とは「馬の足にからめてしばるひも。人を束縛する義理・人情などのたとえ」などとある。絆は「ほだし」とも読む。国語辞典をひくと、「自由を束縛するもの」とある。▼地域の絆はともすれば、そこに住む人の自由を束縛する。だから、隣人に干渉されない、束縛されない、「隣は何をする人ぞ」という住環境こそ居心地がいいとして、地域の絆をみずから放棄してきた過去が私たちにはある。▼地域の絆を再構築することには賛成だ。絆が失われた地域は寒々とし、特に社会的弱者にとっては住みづらい。しかし、絆を再構築する時には、私たちがなぜ絆を放棄したかを省みる必要がある。そして、絆が本来持っているマイナス的側面をどのように減じるか、現代社会に合った絆とは何かを模索することだ。(Y)