当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波市青垣町の稲土自治会の自治会運営制度「最寄」です。
丹波市最高峰、粟鹿山の水を受ける稲土川沿いにある青垣町稲土自治会(194人)は、南北に細長く約3キロ伸びる地形から、独特の「最寄」という制度で自由度の高い自治会運営をしている。下流から上流へ菅原(30戸)、西山(25戸)、日向(15戸)、明号(14戸)。4つの最寄で自治会を構成する。最寄は、「組」(隣保)のような存在で、小字ではない。「組」と言うには事業が多岐にわたり、「ミニ自治会」のような珍しい存在だ。
最寄ごとに公民館を持つ。自治会単位で運営されることが多い「敬老会」「いきいきサロン」「100歳体操」などは、最寄ごと(実施している最寄と、していない最寄がある)。村全体の日役はなく、日役も最寄ごと。川の草刈りの境界は村で決めているが、実施日は最寄で決める。
菅原に天神さん、日向に秋葉神社、西山に八幡神社、明号に浄丸神社があり、これを守るのも最寄ごと。八幡神社と浄丸神社は稲土全体の神社に位置付けられているが、他の最寄から例大祭への参加はない。
旧青垣町は、各最寄に「連絡員」を置き、配り物を自治会長宅でなく、4人の連絡員宅に届けた。その名残で今も配り物の仕分けは、最寄ごと。
自治会の執行体制は、村全体から選ばれる自治会長1人と、最寄から2人ずつの「組長」の9人(副自治会長、会計は組長の互選)。他に監事2人と、公民館長1人を選挙で選ぶ。
市への要望は、稲土自治会名で行う。自治会の決まった行事は総会と毎月の役員会ぐらい。役員会の後、最寄単位で集金常会があり、協議内容が報告される。公民館活動の元旦マラソン、夏祭りは村全体で実施するが、公民館主事が最寄ごとにおり、村とは別に独自の活動をすることも。
市内には、菅原や西山より小さい自治会がある。自治会長が1人で済む「最寄式」は、自治会長のなり手がなくて困っている小規模自治会を抱える地域から、参考にしたいと注目されている。