ため池の逸話を能に 小中学生に披露 「地域に根付く文化に」

2024.06.22
地域歴史注目

小中学生を前に新作能「神池」を初披露する能楽師たち=兵庫県丹波市市島町上田で

兵庫県丹波市の能楽師、上田敦史さん(51)が、同市市島町鴨庄地区のため池にまつわる逸話を題材にした新作能「神池」を完成させた。干ばつに悩む農民を救うためにため池の築造に尽力し、「丹波の農聖」とたたえられる吉見伝左衛門を子どもたちに語り継ぎたいと、同地区の住民から依頼を受けて着手。今月と10月に、同市内の小中学校計23校の児童、生徒を前に披露する。

昭和初期、村の人々は農業で生計を立てていたが、よく日照りや干ばつに遭った。村長の伝左衛門は大きなため池の築造を村人に提案したが賛同は得られず、自費を投じてため池を完成させた。しかし、ため池には水がたまらず、近くの神池寺にある「澄まずの池」で祈願。そこで、少年に化身した白蛇に出合う。村人が祈ると、白蛇が大きな水竜となって飛来し、池に水が満ちあふれる―というオリジナルストーリー。

鴨庄小学校が閉校する前、上田さんは能楽指導で同校を訪れ、伝左衛門の功績を伝える作能の依頼を受けた。あまりに近世の出来事のために不安もあったが、「駄目元で書いてみよう」と引き受けた。

住民から渡された資料をもとに約3カ月かけて謡本を書き上げた。「後世の人が見ても理解できるように話を書いた。古典作品と見比べても遜色ないのでは。能らしい能になった」と納得の表情を浮かべる。

小中学生が鑑賞する公演には、文化庁の「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」の補助金を活用。上田さんが市内の各小中学校に呼びかけ、実現した。

初公演には、市島、柏原中の1―3年生、竹山、吉見、三輪小の6年生計約350人が来場。国重要無形文化財保持者ら第一線で活躍する能楽師たちが「神池」と「石橋大獅子」の演目を披露。流麗な舞や、力強い鼓の音色などで演出される幽玄な世界に見入った。

市島中1年の生徒は「伝左衛門の名前は聞いたことがあったぐらい」と言い、「初めて能を見たけれど、くるくる回って踊ったり、足を『ダンダン』と踏んだりするのが面白かった。楽器の音もでかくて迫力があった」とほほ笑んだ。

上田さんは「丹波は(能楽の元祖となる)猿楽の発祥の地とも言われる場所。能楽を地域に根付く文化として認識してほしい」と願っている。

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