柏原藩の儒者で、「丹波聖人」と言われた小島省斎は、恋愛で妻と結ばれた。省斎が豊岡で宿をとったときのこと。幼い弟に論語の素読を授ける女性と居合わせた。その明晰な音調にいたく感心した省斎は、その女性を妻にめとった。▼素読とは、意味は考えずに文章を声に出して読むこと。今では、なじみが薄いが、ノーベル賞をとった湯川秀樹氏は子どものころ、祖父に素読を授かったらしい。朝早く廊下に正座し、意味もわからないまま四書五経を読んだ。この体験は貴重だったそうで、中間子理論の発見に役立ったという。▼素読に似たものに暗誦がある。暗誦とは、文章や詩歌をそらで言うこと。かつてベストセラーになった『声に出して読みたい日本語』の中で著者の斎藤孝氏は、意味がわからなくてもいいから名文を暗誦し、身体に染みこませることの重要性を説いている。▼子どものころに暗誦に親しむことは、その後の人生に大きなプラスになると同時に、潜在的な日本語力もアップさせるという。▼先ごろ発表された国際的な学習到達度調査によると、日本の子どもの読解力が急回復したという。その要因の一つとして、丹波地域の学校でも普及している「朝の読書」が指摘されている。読書ももちろんいいが、素読や暗誦も見直してはいかがか。(Y)