天然の無常観

2011.03.19
丹波春秋

 「天災は忘れたころにやってくる」の名言で知られ、地震学者でもある寺田寅彦は、日本人には「天然の無常観」が備わっているとした。地震を最たるものに、日本の自然は不安定であり、いつも自然の脅威にさらされてきた。そうした風土のなかで天然の無常観が育ったというのだ。▼自然が暴れ始めると、一種のあきらめの状態のなかでじっと我慢する。ただ、それは悲観的で絶望的なあきらめではない。天然の無常ともいうべき自然感覚を抱き、自然の猛威に対処した。▼天然の無常とは何か。それを読み解くヒントが、吉田兼好の「世は定めなきこそいみじけれ」ではなかろうか。「定めなき」とは直接的には死を意味するが、無常のこと。兼好は「定めないからこそ、おもしろく、妙味がある」とした。▼無常を嘆かず、むしろ肯定的にとらえている。逆説的な視点だ。はかなきことや悲しきことにおぼれ、沈んでしまうのではなく、生きる力の源にするという断固とした姿勢が見られる。▼自然の脅威を見せつけられた東日本大震災。しかし、天然の無常観を受け継いでいる私たちには、底力があると信じている。肉親を失った被災者が、「こんなときだからこそ元気を出したい」と気丈にふるまっているのをテレビで見た。これこそ天然の無常観だと思った。(Y)

 

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