県立陶芸美術館で開催中の「追悼人間国宝三代徳田八十吉」展はすばらしい。九谷の伝統を超越した、宇宙に通じるような形と色は変幻自在。陶器とは思えぬ澄み切った色は、初代の祖父の秘伝を受け継いだものに違いないが、かくまで花開かせたのは、やはり天才だろう。▼タキシードとイブニング姿の男女の写真パネルに「ダンス教師時代」とあり、びっくりした。名門の家に育ちながらなかなか興味がわかず、家に寄り付かなかった時期、祖父が血栓で倒れ、呼び戻された。そして釉薬の調合を手伝いながら秘伝の書付のほか手帳を残してもらったが、手帳には暗号めいた記号があるのみだった。▼祖父の位牌にお経を上げている時、掛け軸の「帰命盡十方無碍光如来」の10文字がふと目につき、数字に置き換えて手帳の暗号を解読。これが、後に独自の工夫を重ね200色を駆使できるようになった始まりだった。▼彼は「祖父は自分が作った色をあの世まで持っていくつもりだったのでは」と書き残しているが、祖父は「この暗号が解けるならば、跡が継げるだろう」と考えたのかもしれない。▼トークに来館した4代目の順子さんは「出来すぎた話と思っていたが、父が亡くなる直前、『じいさんの声が聞こえる』とつぶやくのを聞き、やはり本当と確信した」と話した。(E)