NHK・BS劇場で「父と暮せば」を観た。広島に原爆が投下された3年後の夏を舞台にした映画。登場人物は美津江(宮沢りえ)と父の亡霊(原田芳雄)のほかは美津江に思いを寄せる青年の計3人だけ。井上ひさしが演劇用に作ったので、どうしても台詞が中心になるのを、黒木和雄監督が巧みに映像化している。▼共に自宅の庭で被爆したのにひとり助かり、瀕死の父を置き去りにして逃げる結果になった自分自身を許せず、「幸せになる資格はない」と心に決める美津江と、「俺のためにも青年の胸に飛び込め」と後押しする父の亡霊。▼生前は遊び好きで身上を潰しもしたが、娘を愛することでは人後に落ちなかった父。生き残ったものの被爆で人生を踏みにじられてしまった娘。ストーリーが進むほど、その苦しみが観客に重くのしかかってくる。▼宮沢りえは大河ドラマ「江」の淀役では今ひとつ精彩を欠くが、この映画では実に良い。原田も、遺作となった「大鹿村騒動記」ほどには彼本来の個性を発揮するのを抑えているが、シリアス(深刻)なテーマをほぐす程度に茶化すところなど、やはり彼を置いてはまり役はいない。それと、広島弁の温かさが陰の主役とも言える。▼原水禁世界大会が初めて福島で開かれたこの時期、レンタル店で借りてみては如何。(E)