清少納言が『枕草子』で、「ありがたきもの」の筆頭として「妻の父親にほめられる婿。夫の母親によく言われる嫁」をあげている。現代にも通じそうな話だが、この「ありがたきもの」はもちろん感謝などではなく、めったにないものという意味の「有り難し」である。▼手元の本によると、この「有り難し」は仏教語だそうだ。法句経に「生命あるもありがたし」とあるという。命あることは、有り難いほどにまれなことだから、この世に生まれたことの尊さをかみしめたいという教えだ。▼命の灯が消えるときに言う「ありがとう」も重い。医師の日野原重明さんが「尊厳ある死を遂げたある患者」として、75歳の末期がんの女性のエピソードを紹介している。自らの希望でがんの告知を受けたこの女性は、「口の中に管なんか入れるのはやめてください」と、日野原さんに頼んだという。死ぬ間際に「ありがとう」という言葉を世話になった人たちに伝えたいと望んだからだ。▼この世に人として生まれたことに「ありがとう」と感謝し、臨終には縁を持った人たちに「ありがとう」と感謝する。そうありたいものだが、なかなかそれは有り難いかもしれない。▼丹波市が、「ありがとう」にまつわるエピソードを募集している。さて、どんな「ありがとう」が集まるか。(Y)