「愛する能登を未来へ」 人手不足の中、特産の牡蠣守る 【能登半島地震から2年過ぎ㊤】

2026.03.19
地域注目

特産の「能登かき」を守っていくために奮闘している山口さん一家=石川県七尾市中島町で

「2年たって、やっとスタート地点に立った気分です」―。声色は以前より明るくなったものの、心にも、視界にも、まだ〝爪痕〟は残る。2024年元日に発生した能登半島地震から2年が過ぎた。共に地震で大きな被害を受けた石川県七尾市で暮らす兵庫県丹波市出身の2人の女性。地震後、本紙記者を介して互いの存在を知り、同じ能登で暮らす丹波出身者として「のと丹波人会」を結成し、交流している。それぞれこの一年はどんな時間を過ごし、3年目をどう見つめるのか。再び能登半島へと向かい、2人を訪ねた。

同半島中部の七尾市中島町にあり、特産の「能登かき(牡蠣)」を養殖・販売する「山口水産」。磯の香りが満ちる店内には、殻をむく人々と、牡蠣を買い求める人の姿があった。

「遠いところ、ありがとうございます」―。出迎えてくれたのは、丹波市山南町小野尻出身の山口敦子さん(29)=旧姓・大地=。「2年目の元日はやっぱり『あけましておめでとう』という気分ではなくて。きっと、能登の人はみんな同じ気持ちだったと思う。2日に、やっとおめでとうと言えました」

敦子さんは、夫で漁師の翔太さん(31)、当時、生まれたばかりだった長男の大智ちゃん(2)と被災し、目の前で隣家が倒壊。自宅の敷地になだれ込んだ。幸いけがはなかったが、余震や断水が続いていた時期は大智ちゃんと金沢市の親戚の元に2次避難。隣家の撤去が終わった10月になってようやく家族がそろった暮らしに戻ることができた。

その後、長女のひかりちゃん(1)が誕生。「復興に向かう能登の光に」との思いを込めた愛娘が家族に加わった。被災、避難し、2児の母に―。激動の時だった。

家族で営む山口水産は、津波で牡蠣棚に一部被害はあったものの、直後から営業を再開し、復興の先陣を切って特産を全国に送り続けた。翔太さんは地震当日の夜から、自身のユーチューブチャンネル「能登かき漁師 しょうた」で現状を発信。市外にいる人に代わってまちの様子を届ける活動を展開した。

一方、熟練の技術を持つ従業員が被災して市外に引っ越したり、仕事に出られなくなったりし、人手不足が深刻化。一時はむき身の出荷ができなくなった。

敦子さんは子育てに励む傍ら、事務や殻むきを手伝った。昨年からは人手不足を補うため、翔太さんと共に副業人材(本業を持ちながら他社の業務に関わる人)や、アプリを使って空いた時間にバイトをしてもらう人などを募り、新しい人材を取り入れた。

「もともと農業をされている方が、冬に牡蠣むきを手伝ってくれていたと聞く。丹波でいえば、冬は酒蔵に行くような。新しい取り組みだけれど、昔に戻っているような気もする」(敦子さん)

それでも生産量はやっと地震前の6、7割。産地全体を見ても、ただでさえ漁師の高齢化や担い手不足だったところに地震が追い打ちをかけている。三十数前、約90軒あった能登かきの漁師は今、29軒にまで減った。

さらにもともと子どもの数が少ない上に、地震で人が流出した。ママ友の間では、校区にいる子どもの同級生の数がいつも話題になる。大智ちゃんの同級生は9人、ひかりちゃんの同級生は7人。その下は3人しかいない。地域の危機が改めて浮き彫りになった。

しかし、夫婦は諦めていない。2人の子どもを産んだこと、被災したことをへて、さらに強い思いで子どもたちが育つ能登の未来を考えるようになった。そこにはやはり、特産が必要だ。

人材発掘に加えて、それまでなかった自社のホームページを作成し、販路を広げると同時に特産への思いも広く発信する。また、敦子さんはもともと林業家として七尾に来た経緯もあり、結婚を機にチェーンソーを手放していたが、昨年から翔太さんと共に山仕事を再開した。

敦子さんは言う。「良い山を育てることが良い海を育てることになる。とりあえず、ドングリを育てるところから始めていて、能登の良い未来につながる最初の行動かなって」

翔太さんも、「能登かきを拡大するために人が少なくてもできる仕組みを作ると同時に、もっと働きやすい労働環境も整えたい」と言い、「言い方は悪いけれど、地震があったからこそ気づけたことが多い。ほかの業種も含めて労働力を共有し、一年中、この地域で働き続けられるようにしていけたら」と前を向く。

今も郷里の丹波では敦子さんら丹波人会を支援する取り組みが行われている。丹波から牡蠣の注文も入る。「丹波の名を見るたびにすっごくうれしい。頭を上げて帰れません」と敦子さん。「してもらってばっかりなので、何かで丹波に貢献したい」とほほ笑む。

ひかりちゃんは最近、歩き始めた。「引き続き、愛する能登の里山、里海を次の世代に引き継ぐために、できることを」という思いを胸に、夫婦も新たな一歩を踏み出そうとしている。

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