『垂直の関係』

2012.06.09
丹波春秋

 丹波市春日町出身のソプラノ・オペラ歌手、足立さつきさんのトークを取材がてら聞いた。トークの主眼は、恩師で声楽家の大谷洌子(きよこ)さんの思い出だった。▼足立さんが体調を崩し、苦しんでいた時期に大谷さんから電話が入った。「大丈夫よ。みんな、切磋琢磨してがんばっているのよ」との励ましを受け、足立さんは涙が流れた。それは「滂沱(ぼうだ)の涙」だったと言う。トークで、足立さんは「先生の姿勢を見習い、歌に自分のエネルギーを使い切りたい」と締めくくった。▼大谷さんと足立さん。その師弟の関係を聞き、師と仰げる人物がいることの幸せを思った。宗教学者の山折哲雄氏が、「少年犯罪などの不祥事が発生しているのは、師弟の間にある『垂直の関係』が教育の現場で失われているからだ」と書いているが、的を射た指摘と思う。▼師と仰ぎ、一歩でも近づきたいと思う人物がいれば、師と照らして自らを省み、自らを鼓舞することができる。師がいることは、自己を向上させるエネルギーになる。足立さんの言う「先生の姿勢を見習う」とは、まさにそれで、師を敬い、師を見習うことは向上の道しるべとなる。▼デビュー25周年を迎え、「新しいスタート地点に立ったと思う」という足立さん。それは、師の域に至る道のりなのかもしれない。(Y)

 

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