真っ白なツバメ

2012.09.15
丹波春秋

 宮沢賢治の童話『林の底』は、「鳥がはじめて、天から降って来たときは、どいつもこいつも、みな一様に白でした」と語るフクロウの話から始まる。▼鳥たちはもともと全身真っ白だった。しかし、それでは姿形が似た鳥は、区別がつきづらい。そこでトンビが染物屋を始めた。鳥たちの注文に応じ、鳥の体を染めていくという話だ。▼この童話を、河合雅雄氏はこんな風に読み解く(『宮沢賢治の心を読む』)。鳥たちみんなが真っ白だったときは、鳥たちの悩みや望みは同じだった。でも、それぞれに違った色になると、自分の衣裳を自慢したり、ほかの鳥をけなしたり、うらやんだりと、「いろんなよくない心が育つ可能性」が生まれた。▼フクロウが染物屋をしたという昔話もある(柳田国男『日本の昔話』)。カラスからの「私の衣裳をまたとないような色に染めてくれ」という注文に、真っ黒に染めた。カラスはたいそう立腹し、フクロウをいじめるようになったという話。しかし、カラスが黒くなったのも、もとはと言えば、他の鳥より抜きん出たいという欲が災いした。▼春日町で羽が真っ白なツバメが見つかり、話題になっているという(本紙丹波市版9月6日付)。このツバメは、鳥よりも欲が強く、良くない心にまみれた人間の世界に何かを伝えに来たのだろうか。(Y)

 

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