論語

2013.08.31
丹波春秋

 本紙6面で「論語」についての講演録を載せている。論語と聞いて思い出す人物に、柏原藩の儒者で丹波聖人と言われた小島省斎がいる。もう一人が、大物実業家の渋沢栄一だ。▼若い頃、家業の煙草商を営んでいた省斎。仕事で豊岡の宿に泊まったとき、同宿した若い娘が弟に論語の素読を授けている光景に出くわした。娘の賢明さに感心した省斎は、娘にアプローチし結婚した。なれそめが論語とは恐れ入る。▼その省斎に「人我を敬う。吾もとより漠然たり。人我をあなどる。吾また漠然たり。我はただ、吾が信ずる所を勉むるのみ」という言葉がある。自分の尽くすべきことに尽くし、自分に対する他人の評価に振り回されない。これは、論語の「人知らずしていきどおらず。また君子ならずや」に通じる。渋沢はこの教えを肝に銘じたという。▼「片手に論語、片手にそろばん」を貫いた渋沢にこんな逸話がある。原敬が内務大臣をしていた時のこと。ある代議士が面会に訪れると、たくさんの人が待っていた。自分は代議士だからと、順番を無視して原に会いに行こうとすると、列の後ろの方で渋沢がちょこんと座って順番を待っていた。渋沢は、原の大先輩なのに、かさに着ない。代議士は大いに恥じたという。▼論語を通して人格を磨いたことを物語る話である。(Y)

 

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