ちょっとした贅沢がさらなる欲望を生み、大きな災いを招くという意味の言葉として「象箸玉杯(ぞうちょぎょくはい)」がある。中国、紂王(ちゅうおう)にまつわる逸話が基になっている。▼あるとき、紂王が象牙の箸を作らせた。それを知った紂王の叔父はこう予言した。「象牙の箸を使うようになると、粗末な食器では満足できず、珠玉の食器を使うようになるだろう。すると、食べ物も贅沢になるに違いなく、やがては豪華な宮殿に移る」。▼物が豊かになるにつれ、物欲が輪をかけて肥大した日本人を暗示したような話だ。贅沢は敵から消費は美徳へと大きく変わった中で日本人は、「もったいない」という言葉を忘れてしまった。しかし今、もったいないが見直されている。▼篠山市地球温暖化防止活動推進連絡会が、「もったいないカルタ」を制作した。「さめぬうち風呂に入らぬはもったいない」など、すべての読み札に「もったいない」が入っている。ぜひとも広めたいカルタだ。▼関東の農村に「ものころし」という言葉があった。物の命をまっとうさせず殺すことは罪深い行為であることを教えているが、死語になったと聞く。もったいないも死語になるようでは、将来が危うい。そのことは冒頭の話が示唆している。やがて紂は酒池肉林の宴をするようになり、滅んだ。(Y)