横綱候補として中心の存在だった白鵬が散々な結果に終わった大相撲秋場所。千秋楽、小泉首相に代わって総理大臣杯を渡すべく、朝青龍との結びの一番を観戦していた安倍晋三氏はどんな思いを抱いていただろうか。▼「いつの間にか終わっちゃった」と、狐につままれたような白鵬。先場所以上にけいこを積んできたはずなのに、対横綱・大関戦に全敗し、辛うじて勝ち越しという成績しか残せなかった背景には、「そう簡単に主役にさせないぞ」という、先輩らの意地があったのではないか。▼やはり、そう甘くはない。史上に残るスピード出世かと期待されたのが、また振り出しに戻ってしまった。しかし、彼がさらに力を蓄え、人間としても成長していくためには、多分これで良かったと筆者は思う。▼相撲と政治の世界は全く異なるものの、代議士歴わずか13年、毛並みとルックスの良さで、とんとん拍子に首相の座まで登り詰めた安倍氏にも、共通のことが言える。問題山積。世論の人気など、あっという間に変わってしまう。苦労しなければならないのは、まさにこれからだ。▼「美しい国へ」(文春新書)という著書を読んだ。基本的な考え方は筆者とはかなり違うが、相応の信念と誠実さを備えた政治家であることは認める。大いにもまれながら、彼も成長していってほしい。(E)