「自然保護は豚に始まった」と唱えるのは丹波市出身の岩槻邦男東大名誉教授だ。岩槻氏によると、11、2世紀ごろのドイツで、ドングリの実を食べた豚は非常に味がいいとされたことから、ブナ林の中に豚が次々と放り込まれ、一粒の実も残らないほどに食べ尽くした。▼その結果、森林が自然更新せず、林がなくなってしまう恐れが出てきた。そうした危機感に、豚をどの程度、林の中に追い込めばいいか、おたがいに調整するようになり、自然保全の考えが生まれたという。▼豚が自然を保つ。この『説』は現代も生きていた。過日の弊紙の篠山版によると、篠山市内のブドウ畑で、豚が畑に放し飼いにされているという。何でも豚のおかげで除草の手間が省けただけでなく、ふんが肥やしになり、鼻で土を耕しているらしい。▼興味をひく豚のお手柄だが、「豚に真珠」ということわざがあるように、豚という言葉は一般にマイナスのニュアンスがつきまとう。手元の国語辞典でも「醜いもの・汚いもの・食いしんぼう・のろま・肥満などのたとえ」と、とことん豚をこきおろしている。▼全世界で1日に約60万頭の豚が食肉として生産され、人間の胃袋を満たしているのに、これでは豚も立つ瀬がなかろう。人を「ブタ」とからかうのは、その人だけでなく、当の豚にも失礼だ。(Y)