会期わずかとなった丹波市立植野記念美術館の「田能村直入」展。今も健筆をふるう安田虚心画伯の源流となる南画の筆致に圧倒されると共に、丹波地方に根付いた門人らの作品が、それにも劣らず興味深い。▼直入は京都画壇の重鎮として明治初年、京都府画学校(京都市立芸術大の前身)の設立に奔走し、初代校長を務めた。しかし数年で辞し、自宅で私塾を開設。名誉を追い求めるより、真に芸術のために活動した人と思われる。▼その高弟の安田鴨波(虚心氏祖父)はなお謙虚で、直入から後継者として嘱望されたのを断り、丹波に帰省して地域の後進の指導に当たった。今回合わせて展示された多数の弟子、孫弟子筋の作品コーナーの中に、田松鶴(艇吉)、松井拳堂、上井寛圓らが登場する。▼地元のみならず中央でも実業や教育、宗教などの分野で活躍した、錚々たる顔ぶれで、観ると田の風景画は微笑ましいまでに几帳面。松井の「達磨」はさすがにすごみがあり、上井の「菊」は実に無欲と、それぞれの人柄をよく表しているようだ。▼さらに感服するのは、「農耕のかたわら学んだ」という多くの人たちの作品。これこそが「文人画」の真髄であったのだろう。丹波の文化のぶ厚さ、懐の深さをも痛感させられた。「古臭いのはどうも」と思われる向きも、急ぎ足を運んでほしい。(E)