兵庫陶芸美術館で開催中の「縄文」展を見に行った。約1万3000年前から作られ始めた土器のほかに土偶も展示され、実に興味深かった。▼狩猟、漁撈、採集を生業とし、約1万年もの間続いた縄文時代。米づくりが日本に伝わってから日本の森の3分の1が開拓され、水田化されたが、縄文時代は日本のほぼ全域が森だった。今でも森を多く残す日本だが、縄文時代はまさに森の国で、土器は「森の文明」の中から生まれた。▼森は人を優しくするという。せせらぎ、鳥や虫の声など、森の中では高周波の音が出ている。耳では聞き取れないものの、皮膚を通して全身で聞く。すると脳内物質が活性化され、穏やかになるという。▼森の中は危険でもある。狩猟生活には、生と死を意識せざるを得ない場面がたびたびあろう。飢餓の不安にもおびやかされている。優しさを育みながらも、生命の危険にさらされた森。縄文人はそのような森で暮らし、何を思い、何を信じ、願ったか。縄文土器や土偶を見ていると、それらを生み出した背後の世界を想像せずにはいられない。▼哲学者の梅原猛氏は「森の文明ともいうべき縄文文化が日本文化の基層を形成している」という。「縄文」展は、私たちが今も拠って立つ文化や、時代とともに見失ってしまった文化を語りかけてくるようだ。 (Y)