北京五輪の日本人メダリストの多くが、競技後のインタビューに答えて、周囲への感謝を口にしている。これは決して優等生的発言ではなく、心情の素直な吐露に違いない。そう思い始めたのは、古市忠夫さんの講演を聞いてからだ。▼古市さんは、8年前に60歳でプロテストに合格したプロゴルファーだ。神戸市でカメラ店を経営していたが、震災で自宅兼店舗を焼失。震災で価値観が大きく変わった古市さんは、地域の復興に奔走する一方、プロゴルファーをめざした。▼プロテストのとき、古市さんは、誰が合格し誰が不合格になるかがわかったという。それは、あいさつだ。「感謝の心がある人はきっちりとあいさつする」。古市さんに言わせると、スポーツなどでぶち当たる「壁」とは「扉」のこと。その扉を開けるカギは、「ありがとう」という感謝だ。▼自分ひとりの力でのしあがろうとする人は、壁にぶち当たると萎縮する。これに対して、感謝の気持ちを持つ人は、自分以外のものから力をもらえる。かつて具志堅幸司さんがロス五輪の体操競技で金メダルを獲得したとき、「神か仏か、そういうものが力を貸してくれた」と答えた。これこそ、目に見えない自分以外の力だ。▼勝利の女神も、「ありがとう」と素直に言える人には好感を持って味方するだろう。(Y)