東京都内で脳出血の妊婦の受け入れ先が見つからず亡くなったことが報道されている。脳外科、麻酔科、産婦人科、小児科の医師を、特に手薄な土曜にそろえ、空床を用意できる病院は、そうはない。東京でも。兵庫県は、言わずもがなだ。ハイリスクな妊婦は高機能病院に集まるが、集まった妊婦に対応できるほど産科医を集めることはできない。全国で5700人弱(2006年)と圧倒的に少ない。 神戸大学産科の入局者は2年連続0だ。なり手が極端に少ない。若い産科医は誕生せず、新戦力が投入されない現場では、中堅・ベテランが疲弊し分娩の取り扱いの中止が続く。日本の産科医療は、孤立した硫黄島のようなものだ。自治体病院の勤務医不足と根底は同じで、「働けない環境」があるから、医師が増えない。 日本中で医師が「働ける環境」を考える試みがなされ、民間に指定管理に出したり、独立行政法人化するなど、直接病院経営から手を引く自治体が増えている。経営者が「元凶」ということがままあるからだ。産科の場合、なり手不足の大きな原因は、「お産で人が死ぬなんて」と考える国民意識だろう。(足立智和)