「診療休止恐れている」 柏原病院長発言検証

2008.12.27
丹波の地域医療特集

  「診察機能の一時休止を余儀なくされることを恐れている」と22日に開かれた丹波地域医療確保対策圏域会議で、県立柏原病院の酒井國安院長は、病院休止の可能性に言及した。柏原病院を追い詰めるものの背景を探った。
■医師不足
 4年前に43人を数えていた常勤医師は、 今年4月に20人になった。 今月末で循環器内科の医長1人が退職、 循環器が専門の内科部長も大学の人事で1月末で異動するとみられる。 その時点の医師数は18人。 内訳は、 内科3、 外科5、 小児科5、 産婦人科3、 整形外科1、 放射線科1だ。
 産婦人科も、 今春に30歳代の医師が異動した後は、 神戸大から半年、 3カ月単位で後任が送られているが、 現在勤務中の医師は2月末までの約束。 5月末までは後任の派遣が得られそうな見通しだが、 その先の構図は見えない。 50歳代の2人になった時点で、 分娩受付休止を含め、 産科を存続させるかどうか検討する。
 県、 市の循環型プログラムで常勤1人を招くことができた整形外科医も、 春以降の開業を予定している。
 5人を見込んでいた循環型プログラムだが、 2人の欠員は補充されないまま、 年を越そうとしている。 この先の補充も、 めどがついていない。
■医師の偏在
 1月1日時点の常勤医数は19人。 うち、 小児科と産科が8人を占める。 いわゆる不採算部門の医師が多いのが特徴だ。 今年度だけで、 整形、 眼科、 泌尿器科が常勤医不在となった。 診療の柱の内科医が少ないのが致命的で、 内科医が10人いた2005年度に1日平均92人を数えていた内科入院患者は、 昨年度は同29人と3分の1に減少。 年度途中から医師5人となった今年度は、 上半期で同22人。 受けた患者は最後まで担当する主治医制をとっており、 急変した時には主治医が駆けつける。 多くが重症患者だ。 科全体の患者数が減っても、 個々の医師の負担は重く、 45床のベッドの半分程度を埋めるので手一杯だ。
 内科は、 内科の患者だけを診るのでなく、 内科的疾患を持った他科患者への応援が求められる。 高齢者に多い、 高血圧や糖尿病などの合併症がある場合、 例えば外科で手術に耐えられるかを相談する相手は内科だ。 他科も同じだ。 バックアップ体制が取れず、 入り口が狭まっているため、 例えば外科に余裕があっても、 外科患者数も減る悪循環に陥っている。
 若い医師を招くため、 内科系疾患の入り口となる総合診療科の立ち上げを院内で検討したが、 日々の診察に手一杯で教える余裕がなく、 院外から招こうにも総合診療の指導医は引っ張りだこ。 一歩が踏み出せないでいる。
■多額の赤字
 医師が1人減れば1億円収益が落ちる。 昨年度までの累積赤字は72億円。 05年度からの3年間の赤字が、 うち半分を占める。 今年度も過去最悪だった15・7億円に近い数字になる見通しだ。 昨年度の人件費比率は、 118%。 医療で得た収益以上に人件費がかかっていることを意味している。
 収益改善のため、 303床から146床にベッドを削減。 今年度は看護師15人を三田市民病院に派遣、 年度途中で3人を、 年明けから10人を他の県立病院に研修名目で派遣する。 ベッドを減らし、 職員を減らし、 整形外科外来を再開するなどしても、 入院が増えなければ、 赤字は減らない。 外来と入院では、 患者1人あたりの単価が違う。 昨年度で、 入院が約4万円、 外来が約1万1000円だ。
 病床稼働率は、 05年度の65%から昨年度57%、 今年度上半期は約54%と低下。 ドル箱の整形外科 (入院単価3万4000円)、 眼科 (同4万6000円)、 泌尿器科 (4万1000円) の入院休止も大幅な減収要因。 05年度と昨年度を比べると、 入院患者は4割、 約3万4000人減った。 うち内科が約2万3000人。 05年度の内科の入院収益は11億8100万円。 2位の外科の2・6倍で、 病院全体の入院収益の約4割を占めた。 内科が収入面でも病院を支えていたことがうかがえる。
■下がる士気
 県が今夏策定した県立柏原病院再生プラン。 昨年度で県立12病院の赤字の3分の1を占めた同病院の赤字解消が目的だ。 医師を大幅に増やす以外、 経営改善は不可能なことが現場の医師、 職員には身にしみている。 同時にその難しさも。 「目玉」 のはずだった循環型プログラムでも内科が増えず、 士気低下を招いた。
 開業医から紹介された患者を受けられず、 自前で医師の養成もできず、 大学からも援軍が来ない。 医師は孤立感を深め、 自身の存在意義を疑うように。 自治体病院の赤字体質や官僚的な経営を続ける県にも嫌気が差している。 職員も、 若く行動的な人から異動していき、 ムードが停滞。 減らない赤字が追い打ちをかける―。
■院長会議
 「なし崩し的に混乱を招く事態になる前に、 限られた医療資源の有効活用について検討したい。 院長らが集まり、 検討する委員会なり部会を圏域会議の下に設けたい」。 酒井院長の切実な願いがかない、 3病院長会議が設置される。 どのような丹波の医療地図が描かれるのか、 注目の院長会議が、 1月から始まる。

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