氷上町北地区での医療懇談会。80歳の男性が戦前の思い出話を語られた。氷上町に、小児科のお医者さんが来られた。開業医自体少ない時代にあって、待望の小児科医にみんな大層喜び、そして尊敬していた。しかし、兵隊にとられ、間もなく戦死された。当時小学生だったが、出征する姿を涙を流しながら見送ったのを覚えている、と。 別の男性は、小学6年生になる孫の話をされた。市内の病院で生まれたが、腸がゆ着していて、手術が必要な可能性があったので、即救急車でこども病院に搬送された。この男性は「元気な姿を二度と見られないかもしれない」との思いで病院に着いたが、さほどの処置もなく退院できた。「救急車が揺れに揺れたおかげで、ゆ着がはがれた」と、本気とも冗談ともつかない話に会場は笑いに包まれた。 命や医療にまつわる物語を胸に秘めている人は多く、そういった個人的な物語に触れるたびに、心が揺さぶられる。不幸な話も聞くが、同じくらい幸せなエピソードを聞く。こういった個人の物語を共有することも、医療を大切にする風土づくりを進める一方策と思う。 (足立智和)