白洲正子と丹波布

2009.03.09
丹波春秋

 エッセイストであり、骨董の目利きと評された白洲(しらす)正子に、青垣の丹波布について書いたエッセイがあることを最近になって知った。先ごろ遺作展が開かれた柏原の丹波木綿作家、西垣和子さんの案内で昭和36年ごろ、正子は青垣を訪れていた。丹波布の復興が図られていたころのことだ。▼正子はこう書いた。「30年前に、丹波布が絶えたという事実は、…早くいえば、世間に捨てられたのである」。過去の事実を冷然と見据えた上で、丹波布の今後のあり方を提案している。▼その方向とは、古い技法にこだわることではない。経験をもとに単なる復元ではなく、新しい創造に向かわなければいけない。「後ろを振り向くのではなく、前へ踏み出すのだ。その時、生まれ変わった丹波布はほんとうの意味での創作といえよう」。そのためには、すべてを捨て去ることも必要だと説いた。▼捨て去ることは、否定することではない。生まれ変わるためのステップだ。捨て去るというステップを踏んでこそ、高いレベルに向かって進んでいける。それが創造であると、正子は言いたかったのだろう。▼創造は芸術や文化にかぎるものではない。実業の世界にも、政治にもある。でも、昨今の政界を見ていると、捨て去るどころか、旧弊の体質のままという気がしてならない。  (Y)

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