県立柏原病院の地域医療体験実習で、神戸大の味木徹夫特命教授(消化器外科)が医学生を指導するようすを見ていた。課題は、糸の結び方と傷口の縫合。医学生は教授と横並びに座り、「糸をこう持って」と、手を携えてもらって結び方を教わり、模擬皮膚、模擬血管を相手に練習した。医師は、人命に直結する特別な技術者。「教えるのが上手な人」「いい技術を教えてくれる人」がいる病院が好まれ、逆が敬遠されるのは至極当然、と思った。 新医師臨床研修医制度の影響で柏原病院の医師が減った。この制度が柏原病院のような地方の病院にとって痛かったのは、医師の流動化を進めただけでなく、「教育の喪失」をもたらしたことだ。医師の流出とともに、技術、教育が失われた。 今回の試みは、病院再生の一歩として、極めて意義深い。教育重視を掲げ成功している先行事例はいくつもあり、県立柏原は出遅れていたと言える。が、巻き返す余地はある。全国に名が知れ渡っている。いい研修ができることを広く知らせ、医療に理解がある地域との相乗効果で、医師招へいにつなげたい。(足立智和)