先日、仏像の取材に篠山市味間奥の大国寺を訪れた。この寺の本堂には、本尊の薬師如来をはじめとする計5体の重要文化財が安置されており、その本堂自体も室町初期に建てられた唐様と和様の折衷様式で、同じく重文指定を受けている。本堂の中は薄暗く、拝観用の弱い蛍光灯の明かりに仏像がぼんやりと浮かび上がっていた。日常味わうことのない異空間に、少し背筋がゾクッとした。 気を取り直して、いざ撮影。カメラのシャッタースピードは20数秒という超低速。がっちりとした三脚にカメラを取り付け、ゆっくりとシャッターを切る。暗いからと言ってフラッシュを飛ばすと、この神聖な雰囲気も一緒に飛んでしまいそうだったので使用せず、ピント合わせも懐中電灯で照らしながら行った。気持ちが高まり、やがてお堂の外から聞こえてくる参拝客のにぎやかな声すら耳に入らなくなった―。 ふと時計に目をやると、なんとあれから2時間半が経過。お堂の扉をゆっくり開けると、まぶしい真昼の太陽に照らされ、少し目がくらんだ。と同時に一気に現実世界へと連れ戻された。 (太治庄三)