倫理観

2011.03.31
丹波春秋

 篠山市役所の水道部職員が岩手県の被災地で給水活動を行った。給水車にしるされた「兵庫県篠山市」を見た被災者から、「遠いところからありがとう。ご苦労様です」と言われたという。辺り一面、がれきの山。津波で壊滅的な打撃を受けた中にあっても、感謝の心を見失わない被災者の礼節に敬服する。▼東日本大震災は未曾有の被害をもたらした半面で、先の礼節をはじめ、思いやり、不屈の心など人々の美徳もあらわにした。自分も被災者でありながら公務に励む人、自らを投げ出して危険な作業に携わる人。そんな人々に見る使命感も、美徳の一つだ。▼吉田松陰に「私を役(えき)して公に殉(したが)ふ者を大人(たいじん)と為し」という言葉がある。「私を使って、公に従う人を立派な人という」という意味。一身を投げ出して公のために尽くす「大人」の使命感には胸を打たれる。▼倫理の「倫」は共同体のことであり、倫理とは人々がともに生きるための道のことだという。共同体は、公に置き換えられる。▼現代は倫理観が薄れてしまったとばかり思っていたが、公に尽くす人々の気高さに触れ、そんなことはなかったと認識を改めた。ひるがえって自分は公のために何ができるか。震災の救援・復興は、我々の倫理観を発揮すべき見せ所だと言える。(Y)

 

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