わが家の庭先に樹齢300年以上と伝わる1本の柿の木がある。種類は「久保」。樹高約12メートル、根元の幹直径が60センチ程度なので、さすがに300年は言い過ぎかもしれないが、かなりの老木であることは確かだ。樹勢はいまだ旺盛で、年によって変動はあるが、今年はたわわに実を付けてくれた―。
今は亡き祖母の話によると、甘いものが貴重だった昔、この時期になると、大勢の子どもたちが柿の木によじ登り、柿の実を競うようにして取り合ったという。今ではずっしりと肥えたわが父親も、当時はするすると器用にてっぺん近くまで登っていたと聞かせてくれた。
先祖代々、この柿の木と共に暮らしてきたわが家。毎年、このようなにぎやかな光景が繰り広げられてきたのだろう。そんな私もてっぺんまでは無理だったが、母親に「柿の木は折れやすいから気をつけや」「危ないから、もう降りておいで」などと口やかましく言われながら、8合目付近まで登った日のことを思い出す。さて、まだ幼い2人のわが子も将来、この柿の木に登ろうとして、妻を心配させる日がやって来るのかな。(太治庄三)