ひな誕生の喜びとエゴ

2012.05.02
未―コラム記者ノート

 環境省は先月22日、新潟県佐渡島で野生復帰を目指して放鳥した国の特別天然記念物「トキ」のペア1組について、ひなの誕生を確認したと発表。自然界でのひなの誕生は1976年以来、実に36年ぶりという―。
 このような報道が連日、テレビや新聞などでにぎわいを見せている。確かに快挙と言える出来事だが、私はこの騒ぎに少し違和感を覚える。というのも、日本産トキは「キン」と名付けられたメス個体を最後に2003年に絶滅しており、現在日本にいる個体は、すべて中国産の個体。DNAは日本産と同じとされるが、それでも国内で一度は絶滅させておきながら、絶滅の根本原因となった環境などが何も改善されていないのに、一体これからどうするつもりなの、という気持ちが先立つ。
 それよりも地球上で日本にしかいない固有種で、生存が風前のともしびにある絶滅寸前種のノグチゲラ(鳥)やヤンバルテナガコガネ(昆虫)、イリオモテヤマネコなどの保護にもっと力を注ぐべきでは。体が大きく、姿が美しいから守りたいトキ。ここにも人のエゴが見え隠れする。 (太治庄三)
 

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