日本シリーズ最終戦、8回頃からテレビが楽天の投球練習室をしきりに映し始めた。速い球をびゅんびゅん投げる田中。「まさか!」。解説者も驚いた風で、「もしかしたら、9回2アウトから登場するかも知れませんね」。ところが9回表冒頭、星野監督が意気込んだ声で、ピッチャー交代を告げた。どよめくスタンド。▼7、8回と好投していた則本も、最後まで投げたかったに違いないが、涼しい顔で送り出す。守備についた他の選手も「絶対支えるよ」といった表情。悠然と構える星野監督の心中には不安もよぎったろうが、「これで万一、逆転負けしたとしても、最高の場面を提供したんだ。ファンも納得してくれるだろう」と思っている風に見えた。▼先日逝ったV9の神様、川上さんならば、こんな冒険は100%しまい。そこが、仙ちゃんの愛すべきところだ。巨人ベンチの原監督も、阿部主将も、田中の気迫に呑まれたように呆然としている。この瞬間、「あっ、勝ったな」と確信した。▼本当に、野球はドラマ。最古豪に最新興チームが挑んだ今シリーズは、最後までスリルに満ちていた。田中は来シーズン、多分アメリカに渡るだろう。大きな穴がどう埋められるか気がかりではあるが、思わぬ新人が続々と現れる楽天。心配はいるまい。マー君、新天地での健闘を祈る。(E)