タクシー運転手

2015.12.24
丹波春秋

 先月、地獄で仏に会った。東京で夜会合を終え、丹波で用事があるので翌朝7時の飛行機を予約、午後11時に就寝した。品川のホテルのバスは羽田まで30分。4時半に目覚まし時計をかけていたのだが、気が付いたら6時25分。出発まで35分しかない。それでもと、1分で着替えて顔も洗わず部屋を出た。▼16階のエレベーターを降りて玄関にたどりついたのが28分。ところが、アクリルガラスの自動ドアを飛び出そうとしたとたん、「ごつーん」という音がして右眼の上で火花が散った。誤って隣りのガラスを突っ走ろうとしたらしい。▼血がたらたら出てきたが、今はそれどころでないと前の広場へ。しかし無論、バスはいないし、日曜朝の道路はガラガラ。ところがその時、前方を左から走ってくるタクシーが1台。呼び止めるとすーっと寄って来た。▼ちょうど6時半。「高速に乗れば15分です。うまくいけば間に合うかも。でもお客さん、ひどい顔ですね」。運転手は実に機敏で、走りながら消毒液やチリ紙を出してくれる。空港ビルに着いたのは13分後。荷物検査ゲートを締切1分前に滑り込んだ。振り向くと、何と運転手が後ろからついて来てくれている。▼機内に着席したとたん、激痛に襲われた。丹波の用事はキャンセルとなったが、あの運転手が今も懐かしい。(E)

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