老桜

2016.04.14
丹波春秋

 桜の見納めに円通寺(氷上町)へ。本堂裏の山裾に立つイトザクラは樹齢2百年。今年は開花がだいぶ早かったようだが、頭上はるかから降り注ぐように垂れる花々が、風に揺られて薄ピンク色に輝いていた。真緑に苔むした根元が真二つに割れているのが痛々しいが、とにかく無事咲いているのにほっとする。▼年々老いていく姿に心を痛めた大木広二・幸子夫妻が「イトザクラを守る会」を立ち上げ、10数年がかりで移植に成功した。その3本の若木の植わる近くの丘へ。こちらも時期は終わり、ほんの少しの名残を見るだけだったが、確かに若い力が命をつないでいる。まだ花のつかない1本は、この日樹医を呼んで新たに施肥したと、後で聞いた。▼帰りに天王坂を越え、春日町長王の稲荷古墳へ。人里離れた山あいに人知れず立つ山桜の巨木。樹齢不詳だが、円墳の石組みの上にどっしりと根を生やす。周囲数メートルの幹に、両手こぶしを突き出したようなごつごつとした木肌を見せ、不思議なパワーがみなぎっている。旧春日町が立てた天然記念物の看板が無残に壊れてよく読めないのが気になったが、この下に眠るお方は一体どなたであろうか。▼「満開の桜や色づく山の紅葉を この先いったい何度見ることに」(竹内まりや)―こんな感傷を、老桜たちが吹き消した。(E)

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