コミュニケーション力

2016.05.28
丹波春秋

 前号の本紙に「高卒求人懇談会」の記事が載った。記事によると、高校の進路担当者が企業の人事担当に、企業の求める生徒像などについて聞き取ったという。▼「新卒採用にあたって最も重視した能力は何か」を企業に聞いた全国調査によると、コミュニケーション力が2位以下を大きく引き離してトップにあがるという。ただ、一口にコミュニケーション力と言っても、報告や連絡を怠らないという基本からかなり高度なものがある。▼たとえばホスピスで実際にあった話だ。末期がんの夫に付き添う妻が、看護師に「この薬、効かないようですが?」と問いかけた。看護師は「他の薬の副作用のために、まだ効果があがらない。もう少し頑張りましょう」と答えた。▼妻はいったん納得したものの、翌日も同じ質問をした。看護師は再び懇切丁寧に答えたが、それが1週間続き、看護師たちは妻をクレーマー扱いし始めた。ある日、回診に訪れたベテラン医師に妻がまたも問いかけると、医師は「奥さん、辛いねえ」と応じた。妻はその場で泣き崩れ、二度とその質問をしなくなったという(平田オリザ『わかりあえないことから』)。▼質問の裏側にある妻の悲しみを受け止めたのだ。言葉にならない気持ちを汲み取る。これほどの能力を身につけるのは容易でない。(Y)

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