身分相応

2016.05.21
丹波春秋
 公開中の映画「殿、利息でござる」の原作、『穀田屋十三郎』(『無私の日本人』所収)を読んだ。さびれた宿場町を救うため、藩に大金を貸し付けて利息を巻き上げるという難事業に挑んだ庶民たちを史実に基づいて描いた話だ。私財を投げ打つだけでなく、ひとつ間違えれば死罪になる。そんな決死の行動に臨む庶民の覚悟が活写されている。▼著者の磯田道史氏によると、江戸時代には「身分相応」の行動原理があったという。「身分に応じた振る舞いをせよ」という規範で、「武士が見事に腹を切るのも、庄屋が身を捨てて村人を守るのも、この身分相応の原理に従ったもの」と、同書にある。▼身を捨てて村人を守る庄屋。この史実は篠山にもあった。江戸初期のこと。干ばつのため餓死者も出るなか、秋に柿がたわわに実った。村人は柿で命をつないだが、藩は年貢の代わりに柿を納めるよう命じた。村人を救うため、二ノ坪村の庄屋、重兵衛らは京都所司代に訴え出た。▼その結果、柿年貢は取りやめになったが、重兵衛ら9人は死罪となった。「八上高城に於て磔付け」と史料にある。庄屋という身分に伴う使命を果たすため、身命を捧げた高潔さに敬服する。▼それに比して、為政者の身分に離反した知事のおぞましさ。「身分相応」が崩れた現代にため息が出る。(Y)

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