漢字に親しむ

2016.06.11
丹波春秋

 旧制柏原中学校卒業で、のちに内閣総理大臣になった芦田均が在学中の16歳の頃に書いた論文2編を、このほど発行した「丹波人物伝」に収録している。ただ原文ではなく、現代語訳をした。というのも原文は和漢混交文で書かれている上に、難解な漢字が多く使われているからだ。▼たとえば「剰(あまつさ)ヘ」「澆季(ぎょうき)」「扶植(ふしょく)」。論文にはこれらの漢字にルビがついていない。論文は、学校組織の学友会が発行した雑誌に掲載されたもの。当時の生徒たちは、これらの字を普通に読み書きし、意味も理解していたのであろう。▼子どもも読者に想定した河合雅雄氏の著書『少年動物誌』には漢字が多く使われている。河合氏はその訳をあとがきに書かれている。「漢字が持っている素晴らしいイメージを、壊したくなかったからです」。▼ノーベル賞受賞者の湯川秀樹氏が幼いころから祖父に漢文教育を受けていたことは有名だ。河合氏はそのエピソードを下敷きに、漢字に親しむことは、創造的な活動の原動力となるイマジネーションを養うことに大いに寄与することを、あとがきに書かれている。▼「学校の先生にほめられるような男の子は世の中の役に立たん」と語ったほど、わんぱく坊主だった芦田だが、少年時代にどれほど本を読み、漢字に親しんでいたかが論文からわかる。(Y)

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