母語

2016.07.16
丹波春秋

 お中元の季節―。贈り物を渡すときは「つまらないものですが」が常套句だが、文化庁の平成23年度の調査によると、この言葉を使うとしたのは60・8%だった。比較的多くの人が使っているものの、平成10年度の調査と比べると、7ポイントの減となった。白々しいとする抵抗感があるのだろうか。▼しかし、この常套句はいかにも日本的であり、『武士道』を著した新渡戸稲造も同著で取り上げている。「日本人の論理はこうである。『あなたはすばらしい人です。そんなあなたには、どんな品物もふさわしくありません』」。なので、あなたに対する好意のしるしとしてお受け取り下さい、という訳だ。▼アメリカ人は、贈り物を渡す人に向かって品物をほめそやす。それは「あなたはすばらしい人だから、すばらしい品物を贈る」というメッセージなのに対して、日本人は、へりくだることで相手に対する好意を示す。▼こんな謙譲の精神が、物を贈る場面で表れたのが「つまらないものですが」であり、「笑納」という言葉だ。母語には、その国の精神性が宿っている。まさに「母国語の語彙は思考であり情緒なのである」(藤原正彦氏『祖国とは国語』)。▼麗しい精神性を宿した美しい母語は大事にしたい。もしも、すたれたときには日本人の精神性も変貌している。(Y)

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