帰ってきたヒトラー

2016.08.10
丹波春秋

 南ドイツの町でイスラム系の男が銃や凶器で次々にテロ事件を起こした。中でもアフガニスタン人の17歳の移民少年が列車内で斧を振り回して客を殺傷したニュースは衝撃的だった。里親に引き取られて温かく扱われていたらしいのに、ごく短期間に過激派に影響されてしまったという。▼ドイツはメルケル首相のリードでEUの中で最も移民を受け入れてきたが、右翼政党も台頭し、国民からの風当たりは相当に強まるだろう。▼先日、「帰ってきたヒトラー」というドイツ映画を観た。敗戦で自殺したヒトラーが何故か蘇って、皆が「物マネ芸人」と見ているうちにテレビ界の寵児以上の存在になっていくという、荒唐無稽のコメディ。▼興味を引いたのは、映画の撮影と知らせずに、このヒトラー役を人々の中で歩かせた時の反応を、ドキュメント風に入れたシーン。本物とは思っていないからではあろうが、「おぞましい」とはねつけるより、好意的に接する人の方が多かったのだ。▼80年の歳月は人の記憶を風化させていく。映画は無論、ヒトラーの再来を期待して作られたものではない。「ヒトラーも、登場した当時は相当に魅力のある人物だった…」と示唆しながら、ナチスの悪夢と決別し、EUの旗手となったはずのドイツの内情について、痛烈な問題を提起している。(E)

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