騎士団長殺し

2017.04.06
丹波春秋

 村上春樹の新作「騎士団長殺し」は1部、2部計1000ページ、「1Q84」以来7年ぶりの長編で、例によって読み出したら止められない面白さではあったが、終わってみると正直、「何だ、こんなものか」と物足りなさが残った。いくつか気になる点が中途半端なままに、物語としてはさらりと終わっている。▼主人公は36歳の画家。生活のために気の乗らない肖像画を描き、観たものの本質をしっかり捉える眼力を持っているため客からは好評を得ている。しかし妻から離婚を言い渡された痛みを抱えながら、ひっそりと暮らす境遇。▼山中にある高名な日本画家の留守宅に住み始めたことから、穴や壁、異界の人物など、いつもながらの“村上ワールド”に巻き込まれ、有と無、現実と非現実の境を往き来する。▼ナチスドイツや日中戦争時の南京なども登場するが、なんとなく調味料のような扱いで、よく似た仕掛けを持つ「ねじまき鳥クロニクル」や「海辺のカフカ」の迫力には欠けるし、「1Q84」のような宗教性も帯びていない。▼ノーベル賞の常連候補作家の久々の長編としては期待外れだった。「春樹の才能もここまでか」と断じるのは厳しすぎるかもしれぬ。それより、春秋子は第3部までで“中断”と思っている「1Q84」の続編は本当にないのか。(E)

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