昨夏の台風で高齢者施設で多くの人が亡くなった岩手県岩泉町。透明な地底湖で知られる同地の龍泉洞も多量の出水のため閉鎖され、ようやく今春再オープンした。
洞近くの土産店で、58年前に地底湖を初めて探検した丹波市出身の故・越智研一郎氏の写真展が開かれている。店主、早野貫一さんの亡父、隆二さんは私財を担保に観光開発を手がけ、洞の名を全国に知らしめた人。
未知の地底湖の様子を次々に解明していった越智氏は四国沖の海底での事故で早逝。今では地元でも知る人が少なくなったことを憂えてこの写真展が企画された。
昭和34年、越智氏を含む初めての学術探検隊が来た時、中学生だった貫一さんはある日父から「明日はついて来ていい」と言われたが、翌朝、使いで出かけている間に隊は出発。あわてて追いかけて行ったが既に隊の姿は見えない。「1人で小舟で奥の絶壁にたどり着き、10メートル程上ったものの上るも降りるも出来なくなり、上方にぽつりとある電灯が消えてしまったらどうなるかと急に恐怖に襲われた」。
腕がしびれ、もうだめかと思った時にようやく下の方から人の声が聞こえ、別の支洞から戻って来た探検隊に発見された。
洞内は設備の整った今でも、1人で歩いていると怖い。ましてその頃は…。越智氏の偉業を改めて思う。(E)