色鍋島

2017.09.25
丹波春秋

 篠山の兵庫陶芸美術館で開催中の「今右衛門の色鍋島」展を見に行った。「日本磁器の最高峰」とも言われ、370年の歴史を受け継いでいる色鍋島。精緻な絵付けと精巧な作り、気品をとどめた品々に感嘆した。

 色鍋島は、佐賀・鍋島藩の藩窯だったという。もともとは徳川将軍家への献上品や諸大名らへの贈答品として作られたものらしい。展覧会を見た翌日、偶然にも買って読んだ磯田道史氏の『日本人の叡智』に、鍋島藩の藩祖と言われる鍋島直茂の言葉が紹介されていた。いわく「わが気にいらぬことが、わがためになるものなり」。

 直茂の子、勝茂ははじめ石田三成の率いる西軍に味方し、徳川方の伏見城を襲い、手柄をあげた。そこへ国元の直茂から急使が来た。この戦は徳川方が勝利するのは必定、「よく考えろ」と勝茂に伝えた。

 勝茂は不本意だったが、父の教えに従った。三成らが関ヶ原に集結せよ、と言ってきたのを断り、関ヶ原の本戦への参加を見合わせた。これがよかった。勝茂は切腹寸前までいったが、父のおかげで不問にふされた。自分の気に入らないことが、自分のためになるものだという直茂の言葉のおかげで、佐賀藩鍋島家は幕末まで存続した。

 この言葉がなければ、色鍋島も生まれていなかった。ひとつの言葉が歴史を変えた。(Y)

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