雪に覆われた柏原の大手通りを描いた絵が筆者の部屋にある。
手前に裁判所や旧田原文具店。白く静まり返った真っすぐな道の中ほどに和服のコートの婦人が2人、挨拶をかわしている。1936年1月の日付と、川端謹次の署名。新年らしい。川端が東京美術学校卒業の前年。
翌2月末、30センチの雪の東京で2・26事件が起き、国中を震撼させた。不穏な空気を中村草田男は「此日雪一教師をも包み降る」と詠んだ。この年は全国的に雪が多かったのかも知れぬ。無論、画中の婦人たちは事件のことなど一片だに想像してはいない。
草田男はその5年前、満州事変の年、有名な「降る雪や明治は遠くなりにけり」の句を残した。第1次世界大戦が終結したのは今から100年前、1918年。国際連盟の発足など平和が束の間訪れたかに見えたが、世界恐慌が到来し、2・26事件以降日本は真っすぐに戦争の道を突き進む。
平成もあと1年余りの今年は、近年未曽有の株高で幕を開けたが、バブルっぽい匂いも漂う。隣国の方向は依然怪しい雲行き。太平洋の向こうも何やらにわかに騒然とし、政権の行方を危ぶむ声さえ出てきた。
日本列島はすっぽりと寒波に見舞われ、東京が雪で混乱。丹波も今冬初の本格積雪の気配となった。「雲外蒼天」を祈るのみ。(E)