「おれのひつぎはおれがくぎうつ」。革新川柳の先頭に立った河野春三という川柳作家の句だ。
死人が、自分の幕引きをみずから図るというのは荒唐無稽だが、生きることへの気迫に満ちた構えのようなものが伝わり、秀逸だ。
先日、歩くことを推奨し、ノルディックウォーキングの普及を図っている「たんばエヌウォーカー倶楽部」の余田幸美さんの講演を聞いた。その中で河野の川柳を思い出す話があった。「棺桶に自分の足で入るぐらいの気持ちを持ちましょう」。これもまた荒唐無稽だが、歩くことへの気構えが伝わってくる。
余田さんは講演で、「筋肉は正直者なので、使えば保たれる。年齢に関係なく筋肉を使うことが大事。筋肉の減少を防ぐ簡単な方法は歩くこと」と力説された。最期は自分の足で棺桶に向かうほどの気構えを持ち、日頃、歩くことに取り組む。うなずける話だった。
歩くことは身体の健康につながるのはもちろんだが、創造の源でもあるとしたのは、棋士の升田幸三だった。「足でいろんな人をたずね歩く。これが読みにつながり、創作につながる。将棋も足なんだ」。定跡にとらわれない新しい将棋の指し手の創造に自分の一生を賭けるという意味の「新手一生」を掲げた升田の姿勢の源は歩くことだった。
歩くことを改めて見直したい。(Y)