勝海舟

2018.08.26
丹波春秋

 元内閣総理大臣の芦田均が学んだ柏原高校で、芦田の孫の下河邉元春さんが講演をされた(8月19日付本紙)。それによると、芦田は「政治は世襲するものではない」と語り、安易な世襲による政界進出を戒めていたという。

 この話に接し、勝海舟を思い出した。咸臨丸でアメリカに渡り、アメリカの政治などを目の当たりにした勝は、帰国後、老中から「アメリカで学んだことは」と聞かれ、こう答えた。「アメリカでは、無能力者が世襲制で要職に就くという例はまったくありません」。老中が激怒したのは言うまでもない。

 世襲の否定をはじめ、勝はアメリカで感心することが多くあった。その一つが、まるで「魚市場のような」議場での議論だった。老中の密談とはまったく違った。しかも、激しくやり合った論敵がいったん議場を出ると、にこやかに肩をたたき合って談笑している姿に一驚した。これが「民主政治か」と感激したという。

 異なる意見を持った相手でも、その人を排撃したり、人間性を否定したりはしない。反対意見のない意見というのは存在しないという見識があり、意見は違っても、その人自体は尊重するという寛容性を持っている。

 世襲がまかり通る日本の政界、自分の意に沿わない意見を述べる者は排撃するアメリカの大統領。うーん…。(Y)

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