高齢の親が運転、悩む家族 抜本的な解決法はなく 地方の高齢ドライバー(下)

2019.06.07
ニュース丹波篠山市

「高齢者運転標識」のステッカーをつけて走る軽自動車。ステッカーをつけない高齢者も多い=兵庫県丹波篠山市内で

(上)
東京・池袋の事故を受けて、高齢者の運転免許の返納が増加傾向となっている。一方、公共交通網が発達していない地方部では、「車=足」であり、免許を手放すことは死活問題となっている。家族は悩み、行政も地方特有の課題と捉えながらも、抜本的な解決法は誰も持ち合わせていない。

 

90歳代の父が今も車運転

兵庫県丹波篠山市で暮らし、90歳代で今も車に乗っている父親を持つ息子(59)は、1時間15分ほど離れた土地で暮らす。

東京・池袋の事故を知った際には、「血の気が引いた。親には、『どれだけ立派な人生を歩んできたとしても、事故を起こせば”犯罪者”として人生を終えることになる。それだけではなく、家族全員の問題になる』と話した。父は理解してくれて、夜の運転はできるだけしないと言ってくれました」と言う。

ただ、免許の返納を強くは求められていない。両親が暮らす地域は、市の中心部まで車で30分。「陸の孤島」と言っていい場所で、車がなければ買い物や通院もできないからだ。 週に何度かは買った物を届けに行くが、仕事もあり、日常は任せるしかない。

父は耳も遠くなってきていて、介護タクシーなどをチャーターすることも難しい。この夏には免許の更新が迫る。もし、更新ができなければ、ヘルパーを頼むなど具体的な対策を考えるという。

 

家族通報で逮捕 車売れば新車購入のケースも

福祉関係者も「車」を大きな課題と捉えている。あるケアマネジャーは、担当する高齢者の家族から、「親の免許を取り上げたい」という趣旨の相談を幾度も受けるが、あくまで自主的な返納を勧めるしかなく、家族とともに“説得”にあたるものの、なかなか思うように進まない。

都市部で暮らす息子が、親に「危ないから免許を手放して」と言ったところ、「なら出かけたいときにお前が必ず帰ってこい」と喧嘩になり、あきらめたこともある。

中には家族が免許を隠し、失効しているにもかかわらず乗り続けている親もおり、苦渋の決断として、親が車に乗って出かけた瞬間、警察に通報。逮捕してもらってでも車に乗れない状況をつくる場合もあるという。

また、家族が鍵を隠せば合い鍵を作り、車を売りに出せば、いつの間にか新車を買っているケースもあり、行きつけの車販売店に、「来ても売らないで」と釘をさしておく人もいるそう。

家族が免許を返納させたいと考えている親の多くが、認知症や体の衰えなど、介護サービスを利用できる状態にあることが多く、少しでも車に乗る時間を減らすため、デイサービスの利用に持ち込むこともあるという。

 

警察「不安感じたら免許返納を」

70歳以上の人が免許を更新する際に義務付けられている高齢者講習を開いている自動車教習所にも、家族から「更新しないように伝えてほしい」という声が寄せられることがあるという。

ただ、福祉関係者と同じく、教習所にも免許を返納させる権限はない。

「教習所は安全な運転を行ってもらう場所で、運転をやめさせる場所ではない。なので、視力や視野などを検査し、自分の状態を知ってもらうことしかできない」と言い、「相次ぐ高齢者の事故を受けて、講習が厳格になる可能性はある。けれど、免許がなくなった後の救済策はない。結局は事故の予防に、行政や警察などと連携し、コツコツと取り組みを考えていくしか」と漏らす。

篠山署は、「事故が起こってからでは遅い。運転に不安を感じている高齢者には免許証の返納を考えていただきたい」としつつ、「車なしでは日常生活に支障が出るのは理解できる。支援対策を実施される行政と二人三脚で取り組んでいかなくては」。丹波署も、「年齢を重ねれば必ず反射神経は落ちる。夜間や雨の日は乗らない、交通量が多い時間帯は運転を避けるなどの調整をしてほしい」とし、「警察署も相談に乗るので、家族間でしっかり話し合ってほしい」と話す。

 

救済策とともに「居場所づくり」を

なかなか進まない免許返納だが、返納後のサポートとして、65歳以上で自主返納した人には「特典」がある。

兵庫県の場合、各警察署が発行する「運転経歴証明書」があれば、県内のバス会社やタクシー会社などでつくる「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」に加盟する企業で、タクシー乗車運賃の1割引きや、路線バスを半額で利用できるなどのサービスを受けることができる。

県だけでなく市独自の記念品もあり、丹波市の場合、地域で使える「たんば共通商品券」1万円分を、丹波篠山市では、市のコミュニティバスなどの利用券5000円分などを交付している。

ただ、丹波篠山市では、免許を返納した人が年間170人を超えているが、利用券の交付は年間15件前後で推移しており、積極的に記念品制度が活用されているわけではなさそう。

免許返納以外でも、丹波篠山市では、75歳以上の高齢者などに対し、移動手段としてタクシーを利用した場合の助成制度を創設している。月2枚支給される助成券1枚で、運賃が1000円を超えた場合、半額を補助する仕組みで、補助の上限は2000円。片道5040円かかった場合、自己負担は3040円になる。

丹波市は、70歳以上で免許がない、かつ施設に入所していないなどの条件で、1枚620円のタクシー券24枚か、バスカード(1万6360円分)を交付している。

他の手段として丹波市はデマンド型乗合タクシーを運行。丹波篠山市では、公共交通がなくなった地域で住民が運営する市町村有償運送事業が実施されている。

ともに料金は1回数百円と安価で、一定、返納者の移動手段確保の受け皿となっているものの、運行範囲には制約があるなど、自由度は低い。

丹波篠山市の長寿福祉課は、「免許の返納に対するハードルは、買い物や病院などの生活に必要であること以外にも、『生きがい』や『プライド』があると思う」と分析。「高齢になり、身体能力が落ちていく中、『車を運転できる』という能力までなくなってしまうことが嫌なのではないか。移動手段の救済策とともに、返納した後の居場所や役割づくりも考えていかなければならない」と話している。

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