兵庫県丹波篠山市の愛育会交流会がこのほど開かれ、元読売テレビアナウンサーで、一般社団法人「清水健基金」の代表理事、清水健さん(43)が、「明日の”笑顔”のために」と題して講演した。5年前、妊娠中に発覚した乳がんのため、妻の奈緒さんを29歳の若さで亡くし、現在は同社を退職し、長男の子育てに励みながら、各地で講演などを行っている清水さん。奈緒さんへの思いや長男との生活、支えてくれる周囲への感謝を語った。要旨は次のとおり。
朝、5歳の息子が鏡の前で髪の毛をセットしていた。どうやら幼稚園に好きな子がいるよう。息子の成長が今の僕のすべて。この子のために前を向いていこうと思っている。
前髪セットの話のように、子どもにはいろんな節目があって、「良く大きくなってくれた」と思うと同時に、この姿を妻と一緒に見たかったと思う。
七五三の時も子どもと右手をつないでたまらなくうれしかった。でも心のどこかで「なんで左手にママがおらんの」と思ってしまった。
そう思わないことが「乗り越える」なら、僕は乗り越える必要がないと思っている。
でも、乗り越えていこうとはする。ちょっと進んでまた戻る。それでもいいと思っている。
「ありがとう」という、たった5文字の言葉を大切にしたい。闘病中の妻に「ありがとう」が言えなかった。命と向き合っている妻に言ってしまうと、「もうだめなん?」と思われるかもしれなかったから。意識がなくなってから初めて言えたけれど、妻に届いたか分からない。
日常はずっと続いていく。だからこそ、今、この時間、この瞬間がすごく大事。毎日、当たり前に「ありがとう」をいっぱい言っていきたいと思う。そして、みなさんと一緒にありがとうの輪を広げていきたい。
家には妻と撮ったたくさんの写真がある。写真の中の妻の笑顔は、不安な笑顔かも、悔しい笑顔かも、「どうなるの?」と思っている笑顔かもしれない。口にはしなかったけれど、「後は頼んだよ」という笑顔かもしれない。
それでも、笑ってくれた。この笑顔は今でも僕たちや周りを笑顔にしてくれる。だから、みんなで一緒に笑っていきたい。どんな形の笑顔でもいいから、その笑顔を待ってくれている人がいるから。
今日、みなさんとこうやって出会わせてくれたのも、あの時があるから。一緒に頑張っていきましょう。明日の笑顔のために。