当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波市氷上町三方地区で始まりが分からないほど昔から続いている愛宕社の「お灯明」当番です。
火難除けの神道、愛宕信仰が残る兵庫県丹波市氷上町三方は、およそ90戸が毎日日替わりで、公民館前の「愛宕社常夜灯」に火をともす「お灯明」と呼ばれる風習がある。明かりがともるのは祭礼時のみの灯籠が多い中、ここでは原則毎日ちろちろとろうそくの炎が揺れている。
夕暮れ時にその日の当番が訪れ、さっと火をともす。木札の受け渡しで当番を知らせ、1組から10組まで各戸を巡る。
年中無休の割に、3カ月に1度きっちり当番が回ってくるとも限らないのがユニークなところ。ともすのを忘れたり、木札の渡し忘れで滞っても、細かいことを言う人はいない。
信仰のよりどころ、同集落の愛宕神社は、安政3年(1856)に山の中腹に創立されたと伝わる。「お灯明」の始まりは定かでない。藤井政行さん(82)は、「山に登るのは大変だから、平地に移したんだろう。私が幼い頃から今の場所」と言う。三方八重子さん(87)は、「『明日お願いします』の受け渡しが安否確認」とほほ笑む。
1組の1軒目、“木札リレー”先頭の二森英彦さん(79)は、「3カ月に1度だし、一瞬で終わるし、忘れても翌日行けば済むので、負担感が少なく、続いているのかもしれない。何のためにやっているのか、訳も分からず続けている」と笑っていた。
実は、「愛宕さん」だけでなく、氏神の大歳神社の灯明も同様に、日替わり当番が毎夕、ともしている。