当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波市青垣町田井縄地区に伝わる、モミジで作る「柴神輿」です。
丹波市青垣町田井縄の大神宮神社の秋祭りで、3年ぶりにモミジで作る「柴神輿」の渡御があった。前日にこしらえ、祭りが終わると壊す、珍しい神輿だ。
「柴神輿」はスギ、ヒノキなどの樹木で作る神輿の総称。梅只敏幸宮司によると、江戸時代の中頃から後期に落雷で集落の3分の1を焼く大火があり、モミジなど辺りの木を切って延焼を防いだ故事にちなみ、神輿に防火意識を込めたとの記録がある。
神社周囲に植わっているモミジの枝を切り、金属の籠に差し込んでいく。鈴と、分霊を移す御幣を飾り付ける。田井縄は8組あり、かつては組の宮当番8人で担いでいた。50年ほど前に村の若い衆から担ぎたいと声が上がり、6年ほど前までは若い衆で担いでいたが、時代が巡って担ぎ手がいなくなり、当番制に戻して数年で新型コロナ。2年間、巡行を取りやめた。当番が担ぐのもしんどいと、3年ぶりの今年の巡行から台車を導入した。これまで上部は花火、下部はスカートのフリルのように派手にモミジの枝を飾り付けていたが、今年は、台に納まるように、ややこぢんまり整形した。
50年前、担ぎたいと声を上げた青年の一人、足立綱義さん(75)は「よそみたいに豪華絢爛ではないが、歴史はある。毎年、さらになる神輿は、そうはないだろう」と話していた。