第二の人生はピザ職人 ボクシング元日本王者の大森将平さん 移住し第一歩「夢支えたい」

2023.06.20
丹波篠山市地域注目

ピザを焼く練習に励む大森さん。職人を目指し、日々鍛錬を積む=兵庫県丹波篠山市曽地中で

プロボクシングの元日本バンタム級王者で、一昨年に現役を引退した大森将平さん(30)が、兵庫県丹波篠山市曽地中にある行列が絶えない人気ピザ店「Kuwa Monpe(クワモンペ)」のスタッフとして働き始め、セカンドキャリアの第一歩を踏み出した。オーナーの榎本陵さん(34)の人柄と、店の今後の展望に引かれて働くことを決め、京都市から丹波篠山へ移住。「今まではファンの夢を背負っていた。今度は人の夢の支えになりたい」と目を輝かせる。

コロナ禍以降、選手が少しでも体調不良になれば試合は中止に。海外選手との試合も組めなくなった。目標を見失い、モチベーションが維持できなくなった。「こんな気持ちでやっていても応援してくれる人に申し訳ない」と、一昨年9月に引退。以来、現役時代から続ける介護の仕事をしながら「知らない土地で何か新しいことを」という思いを抱いていた。

そんな頃、知人を介して榎本さんと出会った。優しい人柄に触れながら、経営指針とする「利他の精神」や、店舗増設など今後にかける熱い思いを聞いた。「この人になら付いていける」と、働きたい意思を伝えた。榎本さんも「社員の人生を背負い、経営者としての覚悟を決めよう」と、店を運営する株式会社「T.E.D」の初の社員として迎え入れた。

現在は接客や洗い物、ドリンクメニューの用意、仕込みなどを任されている。客足が落ち着いた後には、ピザ焼きの練習にも励む。

感情を前面に出す元ボクサーの性分もあってか、時にはスタッフと意見がぶつかることもあった。榎本さんの勧めで、マナーや怒りの制御方法などを学ぶ研修を受講。大森さんは「相手の言葉が自分の思っているのと違っても受け入れ、『折れる』ことができるようになった。自分の意見も柔らかく伝えられるようになった」と話す。

榎本さんは「体で覚えるタイプなので、仕事をてきぱきとこなしてくれる」と評価しつつ、「将来は次の店舗を任せたいが、店のリーダーになるには、気持ちの面で成長が必要」と求める。

大森さんは「ボクシングへの未練は全くない。元々切り替えが早いタイプ。これと決めたら猪突猛進」と笑う。「今は上に立つ人になるため、地道に人間性をつくり上げている段階。一つひとつの仕事を丁寧に積み重ねることでみんなが付いて来てくれるようになる。ピザ職人になり、オーナーの夢を支えたい」と、未来図を描く。

◆大森将平◆ 京都市出身。プロボクサーだった父の影響で、中学2年の頃にボクシングを始めた。高校は、山中慎介さんや村田諒太さんらを輩出した名門・南京都(現・京都廣学館)へ進学。3年時には、国民体育大会のバンタム級で準優勝を果たした。プロデビュー後、2012年には全日本バンタム級新人王に。15年には益田健太郎選手を下し、第69代日本バンタム級王者に輝いた。17年には世界タイトルを懸け、WBO世界バンタム級王者のマーロン・タパレス選手と対戦したが敗れた。最終戦績は、25戦21勝(16KO)4敗。左腕から繰り出される強力なストレートは「魔の左」と言われた。

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