当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、丹波篠山市小多田にある「一体だけの六地蔵」です。
墓地の入り口にたたずむ「六地蔵」。通常、名の通り6体あるはずだが、丹波篠山市小多田2区の墓地にあるのは1体のみ。約30年前に土砂崩れが起き、六地蔵が全てのみこまれたものの、奇跡的に土砂の中から見つかった1体だ。
仏教では人が亡くなった後、生前の行いなどによって▽地獄道▽餓鬼道▽畜生道▽修羅道▽人間道▽天道―の「六道(りくどう)」に分かれる。六地蔵はその六道で遭うさまざまな苦しみを救うとされている。
明治以前に建立されたとみられる小多田の六地蔵は、山中にある墓地の参道に立ち並んでいたが、約30年前に市内で発生した豪雨災害時、同地区でも土砂崩れが起き、六地蔵が流された。その後、参道を修復している際に重機で掘った土砂の中から1体だけが見つかった。残りの5体は今も地中に眠っているとみられる。
再び土砂崩れに巻き込まれないようにと少し参道を下った所に安置され、今も赤い前掛けをして墓地を守っている。
代々の墓がある小野健二さん(46)は、1体になってからも墓参りのたびに6体分の供え物や花を供えている。
「ずっと来られるわけではないけれど、来るたびに子どもたちと一緒に手を合わせます」とほほ笑み、「1体見つかっただけでも奇跡なのに、今では1人で6人分のお仕事をされている。大変だと思うけれど、ありがたいこと」と言い、大切に祭り続けている。